高血圧は親から受け継いだ体質(遺伝)と、生活習慣が相乗的に影響してみられる疾患です。体に塩分を蓄える働きは遺伝情報によって制御されていますが、その遺伝情報には個人差があります。塩分を貯めやすい遺伝を持つ人が慢性的に塩分を多く摂取すると血圧は高くなります。そのため、塩分依存性に血圧の高い方の場合は、塩分摂取を控えることである程度の血圧の低下が見込めます。高血圧の方への生活指導で塩分摂取を控える指導が行われるのはこのためです。
しかし、実際の人の体は複雑で、塩分摂取量だけが血圧を決めているわけではありません。喫煙、アルコール多飲、肥満、腎臓病、不眠やストレス、神経質な性格、そして気候など、様々な要因が人によって異なって影響しています。そのため、高血圧診療では塩分のみでなく、喫煙数・体重・カロリー・アルコール量の制限について検討します。その上で、それでも血圧の低下が見られない場合に、降圧剤の投与を開始します。血圧の目標値は「高血圧ガイドライン」で示されていますので、合併症の危険を避けるため可能な限り目標値を達成できるよう、内服薬を調整します。
高血圧の状態が持続すると常に動脈に負担がかかり、動脈硬化症や腎臓機能障害を引き起こします。動脈硬化症が進行すると血管壁が破綻して、脳梗塞や心筋梗塞といった重度の合併症を引き起こします。そのため、尿検査で蛋白尿の確認や、CABIという検査で血管年齢を計測、さらに首の動脈の超音波検査(頚動脈エコー)で実際の動脈壁の厚さを計測することにより動脈硬化の変化を計時的に測定して、治療の効果を見ながら治療を行います。
高山市の久美愛厚生病院に勤務していた頃に年配の先生から聞いた話ですが、高血圧の患者さんが真冬のラーメン屋でラーメンを食べていて、トイレへ行った際にくも膜下出血をおこして搬送されることがよくあったそうです。ラーメンのような塩分の濃いものを摂取して、極寒のトイレへ行ったために急激に血圧が上昇して、血管が耐えきれずに破裂してしまうのです。このようなことのないように、常日頃から塩分を控えめにして血圧を適正に保ち、自分の動脈硬化の程度を自覚しておくことは、とても大切なことだと思います。